
カラー図解「楽器の歴史」
河出書房新社 (2008/09) ISBN-13: 978-4309270449
他の「楽器の本」と違ふ点は
・カタログの綺麗な画像を敢えて使はず、現役の奏者のものや、博物館に所蔵のものなど、実際に演奏に使はれてきた楽器の画像を採用。「音楽を奏でる道具」として伝はってきます。
・各楽器を楽器ごとに分けてまんべんなく解説するのではなく、材料の原産地や種類、文化や合奏の形態、担ってゐる役割、時代、構造、果ては宗教や組織といった様々な観点から、解説を試みてゐます。
といったところです。
さらに重要なことですが、この本には、「であるはずだ」「とも考えられる」「分類は難しい」「かもしれない」など、解説書らしからぬ表現が多く見られます。何気ない言葉ですが、「自分にはわからない」ことを、「わからない」と潔く認めて、そこから「なんとかしてわからう」「どう考へたらよいのだらう」と、もがいてゐなければ、決してできない表現です。私はそこに、作者の、楽器、そして音楽の研究に対する、誠実で、徹底した姿を感じます。解説書といふ体裁ばかりを整へて、根拠のはっきりしないことや、研究がまだ不十分なことまでも、まことしやかに真実であるかのやうに書かれてゐる「楽器の本」(そしてそれを読みかじった者が振りまく無責任な言説)が世に溢れてゐる中、佐伯氏の姿勢は、「学術研究は如何にあるべきか」といふ根本の問題を考へさせてくれます。
また、楽器経験者は、まず自分の楽器がどう書かれてゐるかを期待すると思ひますが、「自分の楽器が良く書かれてゐれば、良い本」といふやうな見方をしてゐては、この本の奥深いところにある楽しみを感じることはできないと思ひます。あえて1ページ目からゆっくり読んで、歴史の楽しみ、そして音楽の楽しみを感じ取って欲しいと思ひました。