2008年09月16日

カラー図解「楽器の歴史」 發賣

 楽器研究家で東京藝大講師の佐伯茂樹氏による、オーケストラの楽器図解が、いよいよ發賣になりました。

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 カラー図解「楽器の歴史」 ← クリックで注文できます。
 河出書房新社 (2008/09) ISBN-13: 978-4309270449

 他の「楽器の本」と違ふ点は

・カタログの綺麗な画像を敢えて使はず、現役の奏者のものや、博物館に所蔵のものなど、実際に演奏に使はれてきた楽器の画像を採用。「音楽を奏でる道具」として伝はってきます。

・各楽器を楽器ごとに分けてまんべんなく解説するのではなく、材料の原産地や種類、文化や合奏の形態、担ってゐる役割、時代、構造、果ては宗教や組織といった様々な観点から、解説を試みてゐます。

といったところです。

 さらに重要なことですが、この本には、「であるはずだ」「とも考えられる」「分類は難しい」「かもしれない」など、解説書らしからぬ表現が多く見られます。何気ない言葉ですが、「自分にはわからない」ことを、「わからない」と潔く認めて、そこから「なんとかしてわからう」「どう考へたらよいのだらう」と、もがいてゐなければ、決してできない表現です。私はそこに、作者の、楽器、そして音楽の研究に対する、誠実で、徹底した姿を感じます。解説書といふ体裁ばかりを整へて、根拠のはっきりしないことや、研究がまだ不十分なことまでも、まことしやかに真実であるかのやうに書かれてゐる「楽器の本」(そしてそれを読みかじった者が振りまく無責任な言説)が世に溢れてゐる中、佐伯氏の姿勢は、「学術研究は如何にあるべきか」といふ根本の問題を考へさせてくれます。

 また、楽器経験者は、まず自分の楽器がどう書かれてゐるかを期待すると思ひますが、「自分の楽器が良く書かれてゐれば、良い本」といふやうな見方をしてゐては、この本の奥深いところにある楽しみを感じることはできないと思ひます。あえて1ページ目からゆっくり読んで、歴史の楽しみ、そして音楽の楽しみを感じ取って欲しいと思ひました。
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2008年09月04日

フェネル氏校訂 ホルストの「組曲 第一番」

 ラディックから出版の、F.フェネル氏校訂の、G.ホルスト「軍樂隊の爲の組曲 第一番」のスコアから、他の版では削除されてゐる「Baritone」のパートを、浄書しました。

 suite01_1.jpg

 御參考までに、全樂章をZIPでアップしておきます。コピーして勝手に使はれると困るので、但し書きを入れてあります。スペルの間違ひも、そのまんまです。

 http://www.euphstudy.com/Images/board/holst1zip.zip
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2008年07月27日

待望のオールカラーの樂器圖鑑

 東京藝大講師の佐伯茂樹氏による、オールカラーの樂器圖鑑が、いよいよ9月に發賣されるさうです。これまでのやうに、現代の樂器ごとに項目を分けるのではなく、例えば角笛から現代の樂器までがどのやうに變化(分化)していったかを辿れるやうな構成になってゐるさうです。

 また、採用されてゐる寫眞も、殆どが撮り下ろしで、カタログ畫像は使はないようにしたため、「實際に演奏に使はれてゐる」質感が傳ってきて、とてもよいさうです。樂しみですね。
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2008年07月24日

Ackermann & Lesser 製 Tenorhorn

 ドレスデンの樂器工房 Ackermann & Lesser のテノールホルン(バスフリューゲルホルン)を入手しました。詳しいことはまだ判りませんが、19世紀末頃から20世紀初めの樂器のやうです。

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 F.ゾンマーのゾンメロフォン(ユーフォニアムの元祖と言はれる)の形によく似てゐます。

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2008年06月29日

パリで購入した資料

1.
A propos du... tuba

 aproposdutuba.jpg

Francois Poullot
1987, Gerard Billaudot Editeur

 ギャルドのtuba奏者(1964-1984)によるtubaについてのハンドブック。冒頭からTUBAのソロ曲を書いた作曲者のポートレイトと樂譜(1ページ目)を掲載。フレンチ・テューバやサクソルンバスなどの畫像も多い。

・サクソルンバスはテナーテューバ
・それより低いFやE♭のものがバステューバ
・さらに低いCやB♭のものがコントラバステューバ

といふ風に、サクソルンも含めて、すべてtubaで括ってゐる。


2.
De la Musique et des Militaires

 BibDeLaMusiqueDesMilitaires.jpg

Colonel Armand Raucoules
Ministere de la Defense

ISBN 978-2-7572-0155-8

 フランスの軍樂隊のガイド。各樂隊の歴史や歴代隊長、作曲者について書かれてゐる。畫像が多く、使用樂器や樂器編成、コステュームなども知ることが出來る。


3.
Traite d'Instrumentation et d'Orchestration (1855)
Hector Berlioz
Eroica Music Publications

 ベルリオーズの「管弦樂法」。ベルリオーズ自身による1855年の補筆版。R.シュトラウス校訂版(1904年)とは譜例が全く異なる。新しい樂器として、SAX-HORNがあり、BarytonとBasseについても記述がある。(p.290) altoはまだtenorとなっている。追々R.Strauss校訂と比べていきたいと思ってゐる。


4.
Traite d'Insturumentation et d'Orchestration (1898)
Gabriel Pares
Henry Lemoine & Cie

 ギャルドの樂隊長だったパレによる、軍の吹奏樂團(d'Harmonie)と
ファンファーレ(Fanfare)についての樂器法。見つけてたまげたが、高價な古本だったので、かなり惱んで、結局購入。Saxhornについても、詳細に記述。tenorは既にaltoになってゐる。

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2008年06月28日

パリの樂譜店と古書店

 樂器屋街(ローマ通り)には樂譜屋さんや、音樂專門の古書店もあります。ユーロが高いので、ネットでアメリカに注文した方が安いものもあります。しかし、ただでさへ不慣れな外國語で書かれてゐるのですから、手に取って、畫像や圖版などを確認してから買へるといふのは、やはり魅力です。

 まづは、「サクソルンに關する本を買ひたい」と訊くと、「そんなら、ここへ行け」と必ず言はれる、Librairie Monnier へ。

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 店内に入ってすぐ、ギャルドの歴代樂長の一人、G.パレ氏による、吹奏樂とファンファーレの樂器法・編曲法の古本を發見。まるで「ここだよ」と呼ばれたみたいな見つかり方でした。日本圓に換算すると高額で、購入を迷ったものの、最後にはレジに持って行ってしまひました。このお店では他に、フランスの軍樂隊の資料(豪華カラー版)や、ギャルドのテューバ奏者によるテューバ(サクソルン含む)のガイドを購入しました。

 次に行った Arioso は、店の表にも中にも、樂譜や本がドッサリ無造作に積んであります(本棚にちゃんと竝んでゐるものもありますが)。店員やお客さんの派手な笑ひ聲が絶えず、終ひにはシャンソンが聽こえてきました(笑)。Librairie Monnier が神保町の古本店のやうな佇まひだとするなら、Arioso は早稻田の古本店のやうな氣さくさがあります。

 このお店は、初版のコピーみたいな Eroica Music Publications といふ廉價樂譜(本)も扱ってゐます。きっと學生さんに重寳してゐると思ひます。私もベルリオーズの「管弦樂法」(自身が補筆した1855年版)を買ひました。36ユーロでしたから、他社の半値くらゐです。ただし、字が大分かすれてゐます。

 最後に有名な樂譜店 La Flute de Pan へも行ってみましたが、特に収穫なしでした。

 殘念ながら、山田伊津美さんから教へて頂いたA.サックスに關する本(既に版切れで、未入手)を見つけることは出來ませんでした。
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2008年06月27日

パリの管樂器店を散策(Musique et Art)

 フレンチテューバ用のマウスピースを買ひたくて、feeling musique で訊いてみたところ、コルトワのT2S(これは既に持ってゐる)しかないと言はれてしまひました。以前にサクソルンバス奏者の山田伊津美さんにインタヴューした際に教はったとほりでした。

 坂を少し下ったところに、Musique et Art といふ店があったので、そこでも訪ねてみました。こちらでは、コルトワのT3を見せてくれました。これがカップの内径が大きいのに、底は淺いといふ、私の理想に近い形。喜んで購入しました。

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 Musique et Art 店内の「團員募集」ビラ。入團しようかしら(笑)。

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 URLのプロトコルがをかしなことになってゐますが、これがパリの姿を象徴してゐるやうに思ひました。なにせ、このとほり、かなり堂々といい加減なのです(律儀な雰圍氣のウィーンの後に滞在したので、初日から大分苦勞しました。そのうちブログの方に書きます)。

 すぐ近くに臺灣のジュピター(JUPITER)のショールームがあったので立ち寄ってみましたが、留守でした。feeling music でも、Musique de Art でも、ジュピター製品を見かけましたし、ウィーンのVOTRUBAにもJUPITER製のイギリス式バリトンがありました。ジュピターはヨーロッパでも、定評があるやうです。
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2008年06月24日

パリの管樂器店を散策(feeling musique)

 續いて訪れたのが、フランスはパリ。ユーフォニアムについて調べてゐると、どうもウィーンで開發されて特許が取られたユーフォニアムと、ベルギー・フランスのサクソルンとの關りが見えにくい(想像の域を出ない)ので、何か手がかりはないかと、樂器・樂譜屋街をうろつきました。

 サン・ラザール驛西側の「ローマ通り(Rue de Rome)」沿ひには、澤山の樂器屋さんや樂譜屋さんが竝んでゐます。管樂器のお店は少ないですが、何店か見つけることが出來ます。實はパリ訪問は三度目でして、初回(20年前)にこの界隈を短時間(2時間ぐらゐ)で回ったのでした。前回(16年前)は殘念ながらサマーヴァケーションで全店休みで訪問できなかったのでした。

 といふことで、實に20年振りの散策です。ちなみに、久々にパリを訪れた印象は「あれ?こんなに汚ねぇ街だったかな?」「あれ?こんなに不親切な街だったかな」ってことでした(笑)。

 弦樂器職人さんのアトリエ(外から見えるやうに、窓際に作業台を置いて作業してゐる)を眺めたり、樂器ケース屋さんで木彫りの古いヴァイオリンケースを眺めたりなどブラブラしつつ、まづは管樂器專門の「feeling musique」を訪問しました。

 ここは、パリに初めて來たときに、先輩が飛込みでクランポンのE♭クラリネットを買ったお店です(私はドイツでバリトンを買ってしまったのでお金ナシ)。當時は、初めて見るサクソルンバスに、かなり興奮したものです。すぐ近くには工房もあり、弦樂器の工房みたいに外から職人さんの作業を見ることが出來ます(かういふ管樂器の工房はここだけのやうでした)。

 丁度、コルトワのサクソルンバス(コンペモデル)の修理をしてゐるところでした。

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 隣にあった、ケノンのバリトン(4本ピストンとは珍しい)を吹いてくれました。

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 工房の外にはこんな看板が。ケノンのサクソルンバスのやうです。

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 お店の方へ行くと、ずらりとこんな感じです。

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 てっきりコルトワだと思ってゐたバスは、なんとケノン製で、新品でした。手廣くはないですが、今も地道に樂器を製造してゐるのですね。

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 フレンチテューバ用のマウスピースを買ふつもりでしたが、コルトワのサクソルンバス用「T2」しかないといふので、諦めました(これなら持ってゐるので)。

 feeling musique は、多くのフランスプレーヤーのレコーディングにも携ってゐます。當然、日本では見かけないCDが色々あるので、物色しました(ここからは、主にのたりさんを羨ましがらせようといふ企畫(笑))。

 テューバとサクソルンを吹く、Francoise Thuillier といふ人の、CDを何枚か買ってきました。前衛的なプレイです。この人と Anthony Caillet といふ人がユーフォニアムで參加してゐる Europian Tuba Trio や、それとこの人達を中心に若手金管低音プレーヤー(なんとローからハイまで、ティーンエイジャーばっか)が結集した Mega Tuba Orchestra(ジャズスタンダード中心)も買ふことが出來ました。また、エキゾチックでファンキーな A'BRASS(ヴァークナーテューバやサクソルンバスなど中低音が充實してゐるコンボ。アドリブもブリブリ)や、Eu. Tp. Pf.のトリオ Brasure TRIO(ユーフォニアムは Loic Preville さん)など、大収穫でした。ディスクの詳細は後ほどまとめて。
 
 15年ぐらゐ前に、フランスの金管低音奏者達が前衛的な分野からジャズまで幅広く音樂活動をしてゐることを知り、以來ずっと不思議に思ってゐました。そのことを、フランスで修行された橋本晋也さんに伺ったところ、「フランスは藝術家組合がしっかりしてゐるので、生活は國が保障してくれる、だからどんな藝術活動を行っても食べていけるのでせう」とのことでした。
 
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2008年06月23日

ウィーン新王宮の古楽器コレクション

 ウィーンには、澤山の博物館があります。この日は美術史博物館(美術史美術館 Kunsthistorischen Museums KHM)で、念願のブリューゲルの繪畫を堪能した(普通の旅行記は、そのうちブログの方に書きます)後、道路の向かひにある新王宮の古樂器コレクション(Sammlung alter Musikinstrumente)を見學しました。

 チケット賣場へ行くと、日本のおばさん達が、日本語でベラベラとまくし立てて、賣場のオジサンを困らせてゐました。どうしました?と聲をかけましたら、4人が一齋に「ここへ行きたいの!」と地圖を突きつけてきました。それがまぁ、全部バラバラなのですが、全部同じ新王宮の中の博物館(笑)。早い話が、日本語の地圖しか持ってゐないので、入り口の掲示を見ても、そこが何の博物館なんだか判らないといふことなのですね。ガイドさんがゐない旅なら、ドイツ語のパンフレットと照らし合はせるぐらゐの努力はしないと、いかんでせうに。

 さて、古樂器コレクションですが、金管樂器の數は少なかったものの、 モーツァルトやベートーヴェンの時代のトロンボーンの他、ウールマンのウィンナヴァルヴのホルン、20世紀のヴァークナーテューバなどが展示されてゐました。

 中でも、19世紀半ばに製造されたウールマン製バステューバ(BASSTUBA)は、元祖モリッツと同じシステムのモデルですが、ベルリンの樂器博物館で觀たモリッツのモデルよりも、とても美しい形状でした。

  basstuba.jpg

 また同じくウールマンによる、1854年のサクソルン(2台あったので、「ZWEI SAXHOERNER」と掲示)が展示してありました。ウィーンでサクソルン?といふ驚きもありましたが、なにより驚いたのは、このサクソルンは、アメリカでよく使はれてゐたやうな、肩に担いで演奏するタイプなのでした。解説を見ますと、どうやらアメリカへ輸出するために造られたもののやうです。とても小さいもので、音域はB管のトランペットより高いのではないかと思ひました。館内の美しい女性職員さんに聞いてみたのですが、詳しいことは判らないとのことでした(アルバイトだったのか?)。

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 「ボンバルドン(掲示では、「TUBA」)」の撮影を藝大の佐伯さんから頼まれてゐたのですが、これが思ひの外難儀し、結局目録に期待して展示室を後にしました(笑)。

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 さて、目録や絵葉書を目當てにショップに立ち寄りましたが、膽心のボンバルドンやユーフォニアムに關する記述はなく、また掲載されてゐる樂器についても、展示室に掲示してある解説と大差ないやうに感じたので、買ひませんでした。ベルリンの樂器博物館やミュンヘンのドイツ博物館のやうなカタログを期待してゐたので、少し殘念でした。
 
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2008年06月17日

ユーフォニアムの元祖

 晝の仕事で色々ありまして、身體はフラフラなのですが、どうにも眠れません。難しい話でも書いてゐれば、少し眠くなるのではないかと思ひましたので、書いてみます。この邊、論文や書籍で、しっかりまとめたいと、前々から思ってゐるのですけれどもね。

 複數の資料(特にドイツ語圏)を讀むと、B管またはC管の中低音金管樂器に「Euphonium」や「Euphonion」といふ名をつけて、最初に特許を取ったのは、ウィーンの樂器製作者といふことになります。

 フェルディナント・ゾンマーさんがユーフォニアムを發明したといふ記述が、よく見られます。しかし、ゾンマーさんの樂器は「Sommerophone」(これは、音樂とは關係のない文献にも登場してゐます。詳しくはこちら。樂器の形も判ります)といふ名稱です。これが、どうしてユーフォニアムといふ名稱に繋がるのでせうか。

 考へてみれば、ゾンマーさんは演奏家ですので、本人が樂器を製造できるわけではありません。どうも、この人の樂器製作に携ったのが、フランツ・ボック(Franz Bock)さんとフェルディナント・ヘル(Ferdinand Hell)さんといふ、ウィーンで工房を開いてゐた職人さんのやうです。

 ウィーンでは、ボックさんの方が先に「Euphonion」といふ名稱で1844年に特許を申請しました。ヘルさんの方はその4日後に「Hellhorn(Euphonium)」といふ名稱で特許申請しました。なお、1年後に、晴れてヘルさんの Hellhorn の方が、「Euphonium」といふ名称で特許を取得します。

 では、それらはどのやうな形状かと言ふと、ボックさんのは、ゾンメロフォンより全体的に太いです。

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 ヘルさんのはゾンメロフォンに近く、

 euphonion_hell.jpg

 といった形状です。

 ヴァルヴはロータリー式ですが、現在のユーフォニアムのやうな太いボアの樂器は、ボックさんの「Euphonion」の方だと考へられます。ボックさんの特許申請には、「その豊かで美しい響きは、金管樂器において、チェロの役割に匹敵する」といふ記述があります。これは、正にユーフォニアムのユーフォニアムたる所以とも言へるのではないでせうか。

 このボックさんの「Euphonion」のスケッチは、ウィーン工科大學にあります。この大學は宿泊したホテルのすぐ近所で、何度も前を通りながら、ああ、ここにその資料があるのだなぁ、と思った次第です。

 Euphonionは、ブルックナー作曲の行進曲にも登場しますし、ウィーンの吹奏樂譜には、今でもこのパートがあります。同じパートが、ドイツやチェコの譜面ではBaritonとなってゐます。Euphonion發祥の地ウィーンですから、傳統的に、敢えて「Euphonion」「Eufonium」などと表記してゐるのかもしれません。

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 ドイッチェマイスターの譜面

 少し眠くなりました(笑)。各々の細かい出典は、論文か書籍にする際にでも。
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2008年06月10日

ウィーンで購入した資料

1.
Handbuch der Musikinstrumentenkunde
Curt Sachs
1930(1990), Breitkopf & Haertel, Wiesbaden
ISBN 3-7651-0051-X

クルト・ザックスによる、樂器學のハンドブック。
ヴィープレヒトのTenorbasshornが後のTenorhornに、
モリッツのTenortubaが後のゾンマーによるEuphonionやBarytonに(p.270-271)なったとの記載。
モリッツのBasstubaの運指(p.271)。

2.
Wiener Musikinstrumentenmacher (1766-1900)

 musikinstrmacher.jpg

Rudolf Hopfner
1999, Kunstthistorisches Museum Wien
ISBN 3-7952-0983-8

1766-1900年までのウィーンの樂器工房の所在地とガイド。
Euphonionで特許を取得したFranz BockやFerdinand Hellは勿論、
工房の変遷も詳しく掲載。

3.
Marsh in Es-Dur (1865, Score)
Anton Bruckner
1996, Musikwissenscaftlichter Verlag

Euphonioが3パートある行進曲

4.
Handbuch der Musikinstrumentenkunde
Erich Valentin
2004, Gustav Bosse Verlag, Kassel

Tenorhornについて、H.Stoelzelの該當樂器はTenortrompetenbassとしてゐる。
Barytonは'kleinen'Bass(小バス)といふ見解。
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2008年06月08日

テノールホルン〜ヘリコンバス

 東京藝大講師の佐伯茂樹氏と話してゐた時のこと。「テノールホルンからヘリコンバスまでが竝ぶと、ベルの向きが一緒になる。これは何か意味があるはずだ」と。實際、ウィーンでドイツチェマイスターの演奏を聽いてゐて、なるほどと思った次第。

 ベルの向きが揃ってゐる(それならユーフォニアムとバス、またロータリーの樂器同士なら簡單にできる)といふだけではなく、ある種の威壓感を生み出してゐるとさへ感じました。

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2008年06月06日

ウィーン宮廷音樂隊

 訪問した土曜日は、ウィーンの王宮(Hofburg)の中庭で、1696年創立の宮廷樂隊の演奏がありました。「ウィーンはいつもウィーン」「狩りのポルカ」「Schönfeld」など、たっぷり1時間、ウィーンの雰圍氣たっぷりプログラムでした。

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 彼らホッホ・ウント・ドイチェマイスター(Hoch und Deutschmeister)は、古き佳きウィーンの樂器を、大事に使ってゐます。

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 訪問した日の編成は、

 指揮(隊長)
 ピッコロ
 クラリネットEs
 クラリネットB
 フリューゲルホルン×2
 トランペットB
 トランペットEs(長管トランペット)
 ホルン(ウィンナホルン)×2
 ロータリーヴァルヴトロンボーン×2
 バスフリューゲルホルン(テノールホルン)
 オイフォニオン(バリトン)
 ヘリコンバス Es
 ヘリコンバス B
 小太鼓
 中太鼓
 シンバル
 旗持ち

 といったものでした。なほ、全ての樂器は通常より半音高いピッチに調整されてゐます。使用する樂器や編成は、この先もきっと變はらないだらうと思はせるやうな頑固さを感じます。恐らくこれを變へてしまったら、この樂隊やウィーンの歴史における、大事な何かが失はれてしまふのでせう。文化の奥深いところに樂器の形態や吹奏樂の編成が關ってゐるといふのは、ちょっと日本では理解しがたいことなのかも知れません。

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 胸に隊長竝の勲章のある、年配のオイフォニオン(バリトン)奏者は、これは100年前の樂器なんだと、誇らしげに見せてくれました。Anton Daniel Fuchs 製で、調べてみたところ、1938年まで活動してゐた工房のやうです(ウィーンで大枚はたいて買った資料のお陰で判明しました)。

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 若いバスフリューゲルホルン(テノールホルン)奏者は、こっちはいつのだか判らない、と言って笑ってゐました。調べてみましたら Anton Dehmal 製で、1907年まで活動してゐた工房でした。こっちも100年選手だったのですね。ウィンナヴァルヴで有名なウールマンや、B&Fとも關係があるやうです。

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 どちらもB&Fと關係がありそうですし、第3ヴァルヴの抜差管の幅が廣いので、現在のチェルヴェニーやアマティー(今はチェコですが、その昔はオーストリア・ハンガリー帝國)に繋がるものと思ひます。それにしても、長年調整され續けた樂器のやうで、100年近くを經た今も、蒼空にひろがるやうな、とても素晴らしい響きを奏でてゐました。樂器を造り調整する職人さんと、演奏する奏者の腕を、どうだと見せつけられたやうに思ひます。

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2008年06月01日

宮廷音楽隊

 やってきました、ウィーンです。うまい具合にウィーンは「吹奏楽祭り」の最中でした(狙ったわけぢゃありません)。

 毎週土曜の午前11時から(季節によりますが)、宮廷周辺〜中庭で、ホッホウントドイチュマイスターの演奏があります。彼らは宮廷所属の名誉ある音楽隊です。いろいろ発見がありました。また後ほど詳しく。

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 テノールホルンとバリトン(オイフォニオン)奏者と。
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2008年05月31日

ベッソン&Co. ユーフォニアム

 フランス式樂器を製造してゐた當時の、ベッソンのプロトタイプです。mackeyさんのページに詳細があるのですが、無能にて何度讀んでも理解できず、たうとう入手してしまった代物です。

 besson_prot.jpg  besson_prot02.jpg

 これ、何がスゴイかって、B/Gのダブルユーフオニアムといふところでせうか。

 基本的な構造は、サクソルンバスと同じで、奏者側に各ヴァルヴの抜差管があります。で、奏者と反對側にG管用の抜差管があります。基本の管に補正管を加へるセミダブル(コンペンセイティング)ではなく、独立した管に切替るダブル構造です。B/Gの切替は、第3ヴァルヴで行ひます。ここまでは、なんとか判りました。

 これに第4ヴァルヴ(シングルのF管?)がどう作用するか、またゆっくり探求してみます。
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2008年05月30日

アレキサンダー製 テノールホルン(B管)

 豫約投稿です。今頃は、飛行機の中だと思ひます。

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 アレキサンダーの古いテノールホルン。

  alextenor.jpg

 A.ベインズの「BRASS Instruments(金管楽器とその歴史)」に掲載されてゐるのと、同じモデルのやうです。画像では判りにくいですが、ベルが小さいです。ただし、首は太いです。ボアも太い感じです。音は、この樂器に近いです。

 詳細はいづれ。
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2008年05月29日

ヲグラ樂器 バリトン(テノールホルン)

 ヲグラ樂器のバリトン(テノールホルン)です。星に碇のマークから推察するに、陸・海(星・碇)兩軍で使はれたものでせうか。

  ogura_bari.jpg


 全國樂器業組合聯合會の「規格檢査合格之證」が貼り付けてあり、「樂器配給協議會認定」、價格が\04.76とあります。よく見ると、「物品税80%税込み價格」となってゐて、驚かされます。製造番號は5829。日管みたいに簡單に年代を特定できさうにないのが殘念です。

 吹いてみましたら、半田外れや、スカスカピストンによる異音が混るものの、とてもよい音色でした。管の組み方も丁寧ですし、思はず「いい仕事してますねぇ」と言ひたくなります。

タグ:楽器
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2008年05月05日

撮影好調

 樂器積み込んで藝大に行って參りました。

  200504.jpg

 今回の書籍の爲に依頼されたのはピストン系ばかりでしたが、それでもこんなにあるんですね。ノーマルなユーフォニアムを見ると、なぜかホッとします(笑)。これでロータリー系まで入ったら、かなりややこしくなります(まぁそれが現状なのですが)。

 月末、ウィーンに行ってきます。あまり知られてゐないことですが、實はウィーンとユーフォニアムは、縁が深いのです。F.ゾンマーのゾンメロフォンを基に、F.ボックによって製作された、元祖「Euphonion」は、ウィーンにて特許の取得がされてゐます(1844年)し、そのスケッチは、ウィーン工科大学にあります。ブルックナーは、自身の「行進曲 変ホ調」で、テノールホルンとは別に「Euphonion」のパートを書いてゐますし、ウィーンの行進曲のスコアには、ドイツとは違って、しばしば「Euphonion」や「Euphonium」のパートが見られます。

 とは言っても、一應は新婚旅行ですので、あんまりディープにするわけにもいきません。さしあたって、

・美術史美術館(樂器博物館あり)
・ドブリンガー(樂譜屋)
・ナッシュマルクトの蚤の市
・樂器屋

を訪問豫定です。ユーフォニアムが生まれた國の空氣を、いっぱい吸いこんで來ることにします。何か収穫があるといいな、なんて思ふと、ワクワクしてきます。
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2008年04月18日

またまた大發見!

 Munch.jpg

 かの有名なムンクの「叫び」に、實は!
 もう、何も言ふことありませんな。
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2008年03月24日

ダメだこりゃ

 新入学、新学期も近いので、「ユーフォニアム・クイズ」でも作らうかと思ひ、試しに作ってみたら… クイズになりませんでした。

http://www.euphonium.biz/euphonium.html

 歴史は「あてっこ」されるのを拒絶しているといふことでせうか。

 時々、本当は簡単な事を、私がわざわざややこしくしてゐる、といったやうな批判を、遠まはしに浴びせられます。しかし実際は、ややこしい問題なのだけれど、今まで触れないできたのではないでせうか(触れなかったから「ダメ」と言ひたいのではありません、念のため)。

 現場主義にも資料主義にも陥らず、「何が正しいか」を求める姿勢をとり続けるということは、思ひのほか困難なことです。
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