2011年10月03日

アドルフ・サックスのサクソルンバス 1869年製

 アドルフ・サックスによる1869年製のサクソルンバス。これが觀たくてベルギーの樂器博物館まで行きました。

  Saxhorn Basse in B flat 4 piston valves
  1869年 バリ アドルフ・サックス製造
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 ポイントといふか、私的なメモ。

・「アドルフ・サックス」が製造した。
・サクソルンの特許取得は1845年(ベインズによれば)。
・1869年というと、既に特許取得から24年、第一回目の萬國博覧會(1851)を終へてから18年が経過してゐる。
・各國で發明された様々な金管樂器の影響が加はり、サックスの当初のモデルよりも洗練された可能性もある。
・一方、ベインズの「BRASS INSTRUMENTS」に掲載の、ロンドンのディスティン社による1849年頃のカタログ中の「Bass Tuba, with 4 Cylinders, in C」(ディスティンではベルが上向きのサクソルンをTubaと呼んでゐたやうだ)とほぼ同じ形状であることから、大きな外觀の変化はなかった可能性もある。
・既にドイツの樂器製造會社のカタログでも同種のサクソルンが見られるが、ベルの広がりが大きい。1855年のハロルド(C.G.Herold)、1867年のグリエール(Glier & Sohn)等(ハイドの「Das Ventilblasinstrument」)。
・サックスの發明(特許取得)当初のモデルについては、依然として不明。
・このモデルのわずか5年後には、ブレイクリーのコンペンセイティングを搭載したユーフォニアムが、Boosey & Co. 社で製造されたことになる。
・サクソルンバスとユーフォニアムとの分岐点は?

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 ベルギー、ブリュッセルの樂器博物館
 サクソルンのコーナー
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2011年09月29日

發動の機は周遊の益なり

 オランダ、ベルギーの旅から無事に歸國しました。今、困難な状況にはあるものの、むしろ身體の自由は効くので、こんな機會もまたとないかも知れないと思ひ、妻と行くことにした次第です。

 オランダは、大都市アムステルダムで市内散策、ゴッホ美術館の訪問、そして、片田舎のローゼンダールの樂器店を訪問し、以前から目をつけてゐたウィーンタイプのバスフリューゲルホルンを購入。

 ベルギーは、ブリュッセルで空軍の記念演奏會を觀覧しレセプションに參加、樂器博物館の見學、そして、アントワープの大聖堂を拜觀。

 ツアーで回れるやうな内容ではないので、航空券からホテル、訪問先のコンタクトまで、すべて自力で手配するしかありませんでした。しかし、それもこれも、インターネットといふ便利な道具のお陰で、なんとか實現できました。

 旅も終盤にさしかかり、アントワープのレストランで静かに食事をしつつ、以前から思ってはゐたものの、取りかかるのが面倒だったり、恐れがあったり、心配が先立って踏み出せなかったことを、やはりやらねばならないと思ふに至りました。

 私があと何年生きられるのかは、わかりません。私が自分なりに疑問を持って、私の中に蓄積されたものは、私といふ人間がこの世から消えてしまえば、消えてしまふものです。ですから、私といふ人間が生きた證を、この世に殘しておきたいと思ったのです。
 
心はもと活きたり
活きたるものには必ず機あり
機なるものは
觸に従ひて發し
感に遭ひて動く
發動の機は周遊の益なり

吉田松陰 西遊日記より


 もちろん、吉田松陰のやうな感じ方が出來たなどとは到底言へませんでせうが、圖らずも、そのやうな旅になりました。毎度ながら、このやうな旅に連れ添ってくれた妻に感謝してをります。

(って、一緒に竝んで撮った寫眞は、樂器屋のこれ一枚。しかも目をつぶってしまひました。申し譯ない。)
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2011年07月26日

演奏者と知識

 先日、あるオーケストラでチェロを演奏してゐるプロの方とお話する機会があった。

 その方から質問。「マーラーの交響曲第7番のTenorhornって本当はどんな楽器なのか」

 以前に演奏したさうで、そのときはユーフォニアムが使はれたらしく、どうもイメージが違ふと思ってゐたのこと。金管楽器奏者に訊いても、不明瞭な回答だったり、自信満々で矛盾した回答をしてゐたりして、要領を得なかったさうだ。

 そこで、マーラーのテノールホルン(テナーホルン)は、実際にドイツ、オーストリア、チェコなどの吹奏楽で使はれてゐる金管楽器であること、ユーフォニアムよりも輪郭のハッキリとした音色であることを話した。

 その方は、やや驚いた表情で、「今までの疑問がすべて氷解した」とご満悦の様子。

 そして続けて「なぜ、みんなこの質問に答へられないのか」とのこと。これは応へに窮してしまった。

 ともかくは、この手の中低音金管楽器は、国や地域によって違ふ楽器が開発されてゐて、役割は同じやうなものだが、それぞれ微妙に響きが異なること、そしてそれらの一つ一つをちゃんと聴いたり演奏した経験を持った人がほとんどゐないといふことを話した。

 その方は「自分達の楽器のことなのに、なぜ金管奏者は・・・」と、やや軽蔑の色をにじませてゐた。

 自分の担当する楽器についての正しい知識を探求するのは、ごく当たり前のこと。専門の教育を受けてきて、プロとして飯を食ってゐるにも関はらず、それを知らないといふのは、どうやら軽蔑の対象にさへなりかねないやうだ。この方も同業者であるからこそ、憂いてゐたのかも知れない。
 
 さて、ドイツ方面の音楽大学にはユーフォニアム等、この手の楽器の専攻がないと聞いてゐる。その為、日本でユーフォニアムを専攻した学生が、彼の地に留学するケースといふのは、かなり少ないのではないかと想像する。この手の楽器が活躍するレパートリーを生んだ地で学ぶ機会を失ってゐるといふことも、わが国でドイツ系の中低音金管楽器に関する不正確な知識がはびこってゐる外的要因なのかもしれない。

 それなら、ハンデがある分、より詳しく、正確に知らうと努めなければならない。数少ない、貴重なレパートリーであるなら、なほさらだ。それはマニアックとかオタクとか、軽蔑されるやうなことでは決してない。むしろ知らないことの方がよほど軽蔑の対象であるといふことを、この方とのやり取りで感じた次第。そして、これをどう読むかは、貴方次第。
 
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2011年07月17日

セルパン入手!

 セルパンを入手しました。

 セルパンとは「蛇」の意味。教会音楽や、軍楽隊・オーケストラで最低音域を担う金管楽器として長く使はれました。

 本当は木をくり貫いたものを合はせ、外側に皮を巻いて作るやうですが、私が入手したものは、アメリカの愛好家の方が製作した樹脂製のものです。

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 フランスへホームステイしたときに見たテレビのコメディー番組で、普通のリビングの壁にセルパンが飾ってあって驚いてゐましたら、骨董品として飾る人もゐるんだと、ホストの家族の方が言ってゐました。

 マウスピースは、ユーフォニアムと同じくらゐの大きさで、音域もまさにユーフォニアム。音色はまだブーブーとしか吹いてゐませんが、現代の金管楽器で一番近いのは、ユーフォニアムでせう。この音域が、かつては金管楽器のバス音域であった(声楽のバスとほぼ同じ?)といふことを示してゐます。今のテューバから想像すると、音色も役割も異なってゐたと言ってよいでせう。決して貧弱なテューバだったわけではないのです。「古いから未発達」といふ無邪気な考へで見ると、本当の部分が見えてこないやうに思ひます。

 下ネタ含めて色々活用できさうです。飽きたらフランス人みたいにオブジェにできるので、大人のおもちゃとしてもなかなかいい買ひ物でした。

 そのうちかとうくんがテナーかアルトセルパンでも買ったら、セルパン二重奏でアンサンブルコンテストにでも出ようかと画策してゐます。セルパンアンサンブル、スーザフォンアンサンブル、この年になってもまだまだ挑戦したいことはあるものですね。
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2011年06月03日

ここ數日考へたこと − 吟味

 ここ數日、ユーフォニアムやサクソルンについて書き記してゐたが、つくづく、思考は言葉によるといふことを思はされた。

 言葉なしに考へることはできない。従って、言葉が間違ってゐるといふことは、考へが間違ってゐるといふことになる。また、うまく言へないといふのは、うまく考へられてゐないといふことになる。

 誰も彼もが學問をしたい方ばかりではないだらうが、もし、正しく考へたいと思ふなら、まづ言葉を疑ふことだ。自分の言葉をよく吟味することで、自身の考へは深まる。

 つまり、自身の考へを述べるといふことは、それ以上に自分と向き合ふ時間を必要とする。もし、時間的にも、興味の範囲的にも限られた中でそれを行ふのは酷だと言はれたとすれば、誠にごもっともで、この點については、議論に付き合って頂いた方に、本當に恐縮し、また感謝してゐる。

 しかし、ユーフォニアムでもテナーホーンでも、演奏してゐる方が少ない上に一般的な認知度が極めて低い樂器に、何の縁か長年携ってゐる者こそ、これらの樂器について、正しく知り、正しく語らうとしなければ、他に一體誰がこれらの樂器について正しく語ってくれるといふのだらうか。これまで、時間をかけて、じっくり研究し、お互ひにじっくり吟味して語るといふことが、殘念ながらほとんどなかったといふのが、我が國の現實ではないか。

 「正しい」といふことを抽象化せず、知り、語りたいものである。それが、人生を少しは楽しいものにしてくれてゐる、これらの樂器への恩返しの一つではないかと思ってゐる。
 
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2011年06月02日

なぜ誤った見解が知識として蔓延し、しかも正しい知識が受け入れにくくなってゐるのか

 管樂器や吹奏樂の歴史や知識において、未だに誤った見解がまかり通ってゐる理由といふのは、實は簡單なことで、今まで日本ではまともに研究がなされてゐなかったといふことこそ、最も大きな理由であらう。

 これまで雑誌の記事や圖鑑、吹奏樂の事典などに執筆したり、アドヴァイザーになってゐた方の多くが、主に演奏を生業としてゐる方や、吹奏樂コンクールに關ってきた方ばかりで、樂器學や音樂史を詳しく研究をされた方ではない。

 勿論、プロ奏者の言ってゐることや、吹奏樂コンクールのお偉いさんの記事など全部出鱈目でアテにならない、などと言ひたいのではない。しかし、演奏を生業とする方やコンクールの運營に携はってゐる方が、各國の文献を丹念にあたったり、比較検討を十分にするといふことはなかなか困難なやうで、よく調べてみると、記事が不正確であったり、不徹底であったり、自身の接してゐる現場に偏った見解(現場でまかり通ってゐること)であったりすることが多く見られたのだ。

 つまり、現場の情報に偏りすぎて、學問的に批判摂取された情報があまりにも少なかったのである。

 もう一つの大きな理由は、情報の受け手の問題だ。不正確な事柄、不徹底な見解、偏った解釋が、我が國の管樂器の世界にはウジャウジャ生まれたわけだが、そのやうなものであっても、一旦知識として定着してしまふと、自身で檢證し、不正確なものを捨て、正しい知識を受け入れるといふことは、思ひの外、困難なのだ。

 例へば円錐管系金管樂器をサクソルンと呼び慣れてしまってゐる人に、それは間違ひだと言っても、なかなか素直には受け入れてくれるものではないし、それなら本當はどうなのだらうと几帳面に自分で調べてみるといふ人も少ない。

 そればかりか、自分の頭で素直に考へる前に、これまでに得た他の色々な知識(これもきちんと檢證されたものとは限らないので、正確かどうかわからないやうな代物だったりするのだが)と自身の經驗とを總合して、既成の知識を弁護しようとしてしまふので、さらに厄介なのだ。

 自分の怪しい知識を、一旦ゼロに出來れば、もっと素直に理解出來ると思ふのだ。先のサクソルンにしても、素直に順を追って行くだけなのだから、決して難しい話ではない。

 難しいのは、自分の怪しい知識を一旦ゼロにして、素直に考へることだ。なぜなら、自分はちっとも怪しいなどとは思ってゐないからだ。

 今、内容が正確且つ詳細でお勸めできる國内の文献と言へば、佐伯茂樹氏の

 「カラー図解 楽器の歴史」
 「カラー図解 楽器から見る吹奏楽の世界」
 「カラー図解 楽器から見るオーケストラの世界」(河出書房新社)だ。
 http://www.kawade.co.jp/np/author/11157

 いづれも、本當のところを知りたいといふ方の道しるべになる、すばらしい文献だと思ふ。是非ご覧になって頂きたい。 そして、既成の知識に囚はれず、是非自身で檢證していただきたいのだ。
 
 また、子供向けに以下の書籍も出されてゐる。

 「知ってるようで知らない 管楽器おもしろ雑学事典」(ヤマハミュージックメディア)
 http://www.ymm.co.jp/p/detail.php?code=GTB01081715

 「楽器の図鑑 全5巻」(小峰書店)
 http://www.komineshoten.co.jp/search/result.php?author=%8D%B2%94%8C%96%CE%8E%F7

 これから樂器の知識を得ていく子供たちに、是非勸めていただきたい。そして、その前に是非ご自身で讀んでいただきたい。
 
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2011年05月30日

三度、ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?について

 一昨日の記事(ユーフォニアムが一般に認知されてゐない理由について)を読んでくださった方から、さらにこのやうなご意見をいただいた。

 私は、「セルパンやバスホルン、オフィクレイドの音色や用法からすると、テューバよりもむしろユーフォニアムに近い、しかし実際にはテューバが採用され、オーケストラの定席を得た」といふ意味のことをこれまで書いてきた。これについて、「ユーフォ吹きの独善的解釈」あるいは、「希望的観測」と評された。

 どうしてそのように読まれてしまったのか、腑に落ちないし、非常に残念に思った。

 これまで、わづかながらかもしれないが、セルパンやオフィクレイドのソロや合奏の実演、そしてオーケストラにおける用法などを辿ってきた上で、今まで抱いてゐたこれらの楽器のイメージや言説が、ずいぶん異なることを、感動と衝撃を以って知った。その経験の上で、これらの演奏には、テューバよりもユーフォニアムが適してゐたはずだと考へたのである。

 実際にイギリスではユーフォニアムがオーケストラの最金管低音楽器として、編成に組み込まれ、その後、E♭バスがテューバとして採り入れられている事実があると、またフランスでは、ご存知のとほりフレンチテューバ(C管のサクソルンバス)が長く使はれもした。これらは、歴とした事実であり、私の独善的解釈でも、希望的観測でも断じてない。

 しかし、結果として、ユーフォニアムではなく、あの大きいテューバが採用されて行ったのは、金管低音楽器の役割が、オーケストラの中で変化して行ったが為だということも、以前に記した(「ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?」)。

 私は「元々の低音金管楽器の役割からしたら、ユーフォニアムが相応しかったはずだ」といふ判断と、その後の役割が変化したことによって、大型のテューバが採用されたのだとといふ判断を一貫して述べてゐるのであり、「ユーフォニアムが採用されなかったのはをかしい」といふ話をしてゐるのでは、断じてない。

 しかも、それをユーフォニアム吹きだから、ユーフォニアムの都合のいいように事実を解釈してゐるかのやうに評されるのは、全く心外である。なぜならそれは、私がユーフォニアムを研究するにあたって、最も忌避し、細心の注意を払ってきたことである。

 どうしてもさうとしか読めないといふのであれば、実に残念であるが、私の力足らずか、あるいは、さうは思ひたくないが、批判された方の認識不足による言ひがかりだと言はざるを得ない。

 私と同じ意見ではなくても、私は一向に構はない。しかし、机上や思い付きや空想ではなく、まともに取り組んでから、ご意見いただきたく思ふ。せめて、まともなセルパンやオフィクレイドの実演に触れて、スコアも読んだ上でご批判いただきたいのだ。今や機会は、いくらでもある。

 そんなことをわざわざしなくても、容易に想像はつく、といふ自堕落な評者にはなっていただきたくないのだ。さういふ無知なる知者によって、実に多くの誤解が巷に溢れてしまってゐるのだから。
 
 これも経験主義に陥ってゐるなどと評されたとしたら、もはやこれ以上深い話には踏み込めまい。経験といふ言葉を…

 いや、もうやめよう。
 
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2011年05月29日

サクソルンといふ総称

 その後、昨日ご意見を下さった方(「再び、ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?を考えへる」を参照)と少しやり取りがあり、要するに、彼が円錐管系金管楽器を「サクソルン」と総称してゐたといふことがわかった。彼は、コルネットやユーフォニアムがサクソルンではないことを知ってはゐたが、読み手が理解しやすい言葉が他に流通してゐないといふ理由で、円錐管系金管楽器を「サクソルン」と称してゐたのださうだ。

 確かに、円錐管系金管楽器をサクソルンと総称してしまふのは、何も彼だけではない。我が国の雑誌や専門書にもそのような記載がされてゐることもある。

 しかし、そのお陰で、ユーフォニアムやテューバについては、これまで多くの誤解を生んできたし、今も正確に把握することを困難にしてしまってゐることは否めない。平素のお喋りであれば、使ひ慣れた言葉で表現すればそれで事は足りる(つまりパスタでもスパゲッティでもどっちでもよい)であらうが、物事を真面目に論ずるとなれば、やはり相応しい言葉を使ふ、発見する、発明することが、思索の第一歩だと思はれてならない。
 
 海外の文献を読むと、Conical Bore Brass Instruments といふ括りが見られる。そこには、サクソルンも、他の国の円錐形金管楽器も含まれるのだ。これは、的を射た括りだと思ふ。そこで、円錐管の金管楽器は、そのまま円錐管系金管楽器と称するのが適切ではないかと思ふ。

 サクソルンとは別の、ドイツやオーストリアの円錐管系金管楽器が、今も普通に彼の地の文化として根付いてゐるのに、これらを「サクソルン」と称するのは、やはり適切ではないだらう。

 吹奏楽とブラスバンドは違ふ、といふことを理解し、使ひ分けることが出来る方なら、この違ひも容易に理解し、使ひ分けられるものと思ふ。

 もし私が、蕎麦屋のおばちゃんから、「あなたブラスバンドやってるんだってね」と言はれたら、実は吹奏楽をやってゐても、普通に「はい」と応へるだらう。訪ねられない限りは、わざわざ吹奏楽とブラスバンドの違ひや言葉の用法など説明はしない。しかし、吹奏楽やブラスバンドをやってゐる人が相手であれば、間違ひなく「いいえ、吹奏楽です」と言ふであらう。
 
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再び、ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?を考えへる

 昨日の記事(ユーフォニアムが一般に認知されてゐない理由について)を読んでくださった方から、このやうなご意見をいただいた。

 「ユーフォがオケで使用されないのは、サクソルンそのものが金管楽器で弦楽器の豊かなサウンドを再現しようとしたために役割が衝突してしまうからだと思う。」

 確かに、ブリティシュスタイルのブラスバンド(以下ブラスバンドと表記)に慣れ親しんでゐる方からすると、そのやうに考へたくなるものなのかもしれない。

 しかし、オーケストラの編成が大きく変化しなくなった以上、この問題で肝心なのは、現代のオーケストラの編成が固まりつつあった時代に、金管低音楽器として、どうして同時期に発明されたテューバが採用され、ユーフォニアムが採用されなかったのか、といふことを考へなくてはなるまい。

 元々、オーケストラの金管低音楽器といえば、セルパンやバスホルン、そしてオフィクレイドであった。メンデルスゾーンの楽曲や、近年発売されたクラシカルなソロCDなどを聴くと、その役割や音域は、現代のテューバと言ふよりも、むしろユーフォニアムに近いことがよくわかる(これらを楽器の形や「幻想交響曲」のイメージで判断すると、大きな見当違いを引き起こす)。

 にも関はらず、テューバが採用されたのである。これについては、以前に書いたので、それをご参照いただきたい(ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?)。

 では、なぜわざわざまたこの問題を採りあげるのかといふと、この方の何気ないご意見は、どうも誤解の上に築かれてゐると思はれ、しかしまたそれはこの方だけではなく、このやうな解釈も実際に非常に多く、ついては自分の考へをここできちんと記して、ご一考いただきたいと思ったからである。

 まづは、基本事項を頭に叩き込んでおく必要がある。テューバ(1835年)もテナーテューバ(1837年 後のユーフォニアム)もほぼ同時期に、軍楽隊の楽器として「それぞれ」発明された。アドルフ・サックスが、それらの楽器を参考に、サクソルンといふ「一連の」楽器を世に出したのは、その10年近く後(1845年)のことである。

 そして、もっと言ふなら、サクソルンの登場する数年前に、テナーテューバを基にした、ユーフォニアムが発明(1843年のゾンメロフォン この楽器は1844年にEuphonionとして特許申請)された。これは、「ソロ楽器」として特許が取られたもので、当然ながらサクソルンを基にしたものではないし、サクソルンとは目的も異なる。

 サックスは、ヨーロッパ各地の楽器を参考に、同一の管の広がりによる、各音域の楽器を発明し(広がり方によって、サクソルン、サクソトロンバ、サクソテューバなどを開発)、これを各国の軍楽隊(もちろん木管楽器も含む)に売り込もうとしたのである。この特性が現在までよく活かされてゐるのが、ブラスバンドだ(当然だが、サックスは、ブラスバンドを作るためにこの一族を発明したわけではない)。

 しかし、ブラスバンド=サクソルン族といふ固定した観念が、かうした事実を捉えにくくする。ブラスバンドに詳しい人ほど、「ユーフォニアムはサクソルンから発展した」と思ひたがり、「サクソルンを中心にしたブラスバンドに、ユーフォニアムが加へられた」といふ風には考へにくいのではあるまいか。

 もっともコルネットもサクソルンではないし、厳密に言ふならフリューゲルホルンもサクソルンではない(これはほぼ同じ楽器と言ってよいかもしれないが、フリューゲルホルンの方が先に世に出てゐることは、やはり心に留めておかなくてはなるまい)。

 ユーフォニアムはブラスバンドで活躍してゐる楽器だといふことから、知らず知らずのうちに、ブラスバンドを前提にして、ユーフォニアムについて考へてしまひやすいのだ。そして、その特性はサクソルンに由来してゐるといふ誤った認識が生まれ、これを疑はうとする力を失ってしまふ。

 これが、ユーフォニアムがオーケストラに採用されなかった理由を、つい「サクソルンの特性」に求めてしまふ原因なのではないか。

 「ユーフォがオケで使用されないのは、ユーフォニアムの豊かな響きが、オーケストラの金管低音楽器の役割としては合はないから」といふのなら、問題はない。

 一見同じやうなことを言ってゐるやうだが、「ユーフォがオケで使用されないのは、サクソルンそのものが金管楽器で弦楽器の豊かなサウンドを再現しようとしたために役割が衝突してしまうから」といふご意見は、あくまでブラスバンドにおけるユーフォニアムの立場や用法から、オーケストラで採用されなかった理由を類推したに過ぎないやうに見える。しかも、その意見の前提となってゐることに、錯誤が感じられる(なぜユーフォニアムの話にサクソルンの特性が関係あるのか? そもそもサクソルンは弦楽器のサウンドを再現するための楽器?)ので、首をひねってしまふのだ。

 この錯誤は、吹奏楽におけるユーフォニアムの立場や用法から類推した場合にも、起こりうる。

 歴史である以上、その時代や情勢を考へなくてはならないとは、誰でも知ってることだらうが、昔の人の目で見るといふことは、思ひの外難儀だといふことを知ってゐる人は少ない。皆、知らず知らずのうちに、今の目で歴史を見ようとしてしまふからだ。そしてその前提にしている「今」が、本当に確かなものか、疑ふ人は少ないからだ。

 さう、ついでながら、どなたか私に見せて欲しい。「サックスが発明した」サクソルンバスのスケッチか写真を。私はまだ見たことがないし、見たといふ人も知らない。誰も知らないのに見解だけが歩き回ってゐるといふことを、誰も不思議とは思ってゐない。

 それが見つかるかどうかわからないが、この秋、思ひ切ってベルギーへ行くことにした。博物館の画像を見る限り、展示されてゐるサクソルンは新しい時代のものばかりで、あまり期待はできないのだが…
 
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2011年05月28日

ユーフォニアムが一般に認知されてゐない理由について(古い雑誌を読みつつ)

 どうも体調が悪く、家でおとなしくする日が続いてゐるのだが、このついでに、古い吹奏楽の雑誌を読んだりしてゐる。

 いづれも、20〜30年ほど前の雑誌で、数年に一度、ユーフォニアムや金管低音楽器の特集が組まれてゐる。ユーフォニアムが一般に認知されてゐないのは、今も変はらず、ひどい場合には、オーケストラでユーフォニアムを使用することを嫌ふクラシックファンもゐたりするのが現実である。

 まぁ、この原因はユーフォニアム=吹奏楽の楽器であり、吹奏楽といふものは軍樂隊による戦意高揚の類、または吹奏楽コンクールに見られるスパルタ式部活指導の範疇であり、こんなものはクラシック音楽とは認めたくない、といふ見方が圧倒的であることを示してゐるやうにも思はれる。

 そして、かういふことを言ふ輩ほど、映画音楽をクラシック音楽の範疇に入れることには、あまり神経質にならない、といふのがまたをかしなところだ。これはもはや吹奏楽アレルギーと言ってよからうと思ふ。ユーフォニアムも、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、といふことで、クラシックファンからは嫌はれる傾向もある。

 それはさておき、この雑誌の当時のユーフォニアムの著名人たち(今も有名な方々)が、ユーフォニアムが一般に認知されてゐない原因を、どのやうに捉へてゐたかが、興味深い。別に個人攻撃のつもりはないので、かひつまんでみると、

・歴史が浅い
・各国で名称や形状が異なり、統一されていない

 といふ意見が多く見られた。

 歴史はテューバとほぼ同じなので「歴史が浅い」とするのは事実誤認か責任転嫁。

 「各国で名称や形状が異なり、統一されていない」といふ意見は、尤もらしいのだが、例へば「バリトン」といふ名称に統一すれば、もっと認知されるかと言ったら「いやいや」と反発されさうなものだ。第一、ドイツやオーストリアのバリトンやテノールホルンを、一律に「テナーテューバ」と記載してゐるところからして、「各国で名称や形状が異なる」事実を、正確に捉へてはゐないのだから、実は扱ふ奏者たちが「面倒くさい」と思ってゐるに過ぎない魂胆が、透けて見えてしまってゐる。責任転嫁の類だ。

 一方、他の楽器の奏者は

・音に芯がなく、(オーケストラの)金管楽器としては異質で扱いづらい

 といふ意見に、ほぼ一致してゐるのが面白い。どうも、他の楽器の奏者からの意見の方が、的を射てゐるやうだ。もし、ユーフォニアム奏者の誰もがこれを悪口と思ってしまふなら、もはやこの楽器に未来はないばかりか、さう思ってしまう本人も知れたものだと思ってよいのではないか。

 結局、一般的には、「オーケストラで使はれてゐない」「吹奏楽でしか使はれてゐない」といふのが、認知されにくい一番の理由のやうに思はれる。そして、吹奏楽の一般的な認識、オーケストラの低迷を考へると、今後もユーフォニアムがメジャー化するとは、きはめて考へにくい。

 もちろん、一般に認知されない楽器が不必要であるとは思はない。適材適所、活躍の場はある。しかし、他の楽器ほどはないし、これからも広がりは乏しいであらう、といふことだ。この「適材適所」といふことを、よく考へるべきだ。「適材」を知り、「適所」を知ることだ。

 夢のない話と怒られるかもしれないが、今後の進路を考へてゐる方、今後の進路を指導する方には、楽器の特性を知り、正確な知識を得ること、そして活躍の場、可能性といふものをよく見据えて、惨めな選び方をしないやう、願ふばかりだ。

 かなり飛躍するやうだが、かうした努力が、結果としてユーフォニアムの歴史になっていくのだといふことを、忘れないでいただきたい。そして、私はユーフォニアムが大好きだといふことも、どうか忘れないでいただきたい(笑)。
 
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2010年12月02日

JETA フェスティバル 2010 レクチャーコンサート 「ユーフォニアムとテューバの源流」

 今回擔當したレクチャーコンサートの模樣です。

■ ユーフォニアムとテューバの源流

【セルパン】 橋本晋哉さん

 serpent.jpg

 最近はテレビにも出演されたりしてゐますね。インパクトのある形状には目を見張りました。

 また、古い聖歌のメロディーにジャズのテイストを含んだ曲も聽かせていただきましたが、心に染みゐるやうな素晴らしい演奏で、温もりのある、人間くさい響きが格別でした。

【ラッシャンバスーン、オフィクレイド】 佐伯茂樹さん

 russianbasson.jpg  ophicleide.jpg

 かつて強大だったローマの軍隊に倣って編成された軍樂隊で使はれたラッシャンバスーン。竜(ドラゴン)の頭もローマ譲りとのことでした。セルパンでは行進しづらいため、バスーンのやうにU字にしたのださうです。音は、ちょっとしか聽けず殘念。寫眞も肝心の頭の部分が切れてしまひました。

 オフィクレイドは、その外觀からくる印象とはちょっと違ひ、ややノイジーなユーフォニアムのやうで、とても温もりのある響きでした。運指によってはやや荒い音になったり、また半音階の運指が樂であったりとか、さういったことを作曲家も考へて作曲をしたのではないかと、ベルリオーズの「幻想交響曲」を例にとってのレクチャーでした。
 
 いづれの樂器も、今のやうな最低音域を大音量で支へるテューバとは違ってゐて、響きに温もりがあり、金管樂器といふキャラクターの中で低音域を奏でる役割であったのではないかといふことを思ひました。
 
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2010年10月20日

なぜ頑なにテノールテューバと呼ぶのか

 さて、先の佐伯氏の記事から、私の中で長年考へてゐた問題が鮮明に浮き上がってきたので、記しておきたい。

 佐伯氏はかなりのスペースを使って、テノールテューバについて解説をしてゐたが、テノールテューバの混乱は、吹奏楽とオーケストラのテューバの發展が異なってゐたことに端を発してゐることが明瞭であった。今やテューバの方は落ち着きを取り戻しているものの、テノールテューバについては依然として混乱してゐる(特に日本において)。

 佐伯氏によれば、日本ではロータリー式のテノールホルンやバリトンを「テナーチューバ」を呼んでしまってゐるところに、混乱の種があると指摘してゐる。全くその通りであるが、そこからさらに、「なぜ日本では、ドイツ式のテノールホルンやバリトンを『テノールテューバ』と呼ぶことを止めないのか」といふことを考へざるを得ない。

 私はそこに、二つの大きな力が反目し合ってゐるにも関はらず、結果として同じ方向を向いてゐるが為に、抗し難い大きな力となってしまって、事實を素直に受容れ難くなってしまってゐるのではないかと思はざるを得ないのだ。

 言ふまでもなく、ユーフォニアムは吹奏楽で発展してきた楽器である。しかし、ほぼ同じ時期に發明されたテューバはオーケストラの中で定席を得た。

 ここに「ユーフォニアムは吹奏楽の楽器だから、クラシックの楽器として確立してゐない」といふ「批判」と「コンプレックス」とが生じたのではあるまいか。両者の立場は異なり、反目し合ってゐるのだが、結局は「吹奏楽はオーケストラより劣る」といふ感覚がそこに働いてゐる点で一致してゐると思はれるのである。

 さて、ドイツ式のテノールホルンやバリトンも、吹奏楽の中で発展してきた楽器であることは明らかである。しかし、ほんの30年ほど前のわが國では、ドイツ式のバリトンやテノールホルンについては、その名称からして知名度がほとんどなかった。もっとも、ユーフォニアムにしても、吹奏楽の雑誌ですらテューバと一緒くたにされてゐた時代であり、当時ユーフォニアムを専攻してゐた奏者が、その地位の向上と確立に全力を注ぎ込んでゐた時代でもある。

 そして、その当時、ドイツやオーストリアの吹奏楽団が來日する機会がほとんどなかった以上、平素見慣れぬドイツ式のテノールホルンやバリトンに日本で遭遇するのは、主に來日するドイツやオーストリアの有名オーケストラだったのではないか。R.シュトラウスなどのスコアに登場する「Tenortuba」のパートが、有名オーケストラにおいて、ロータリーヴァルヴを備へた見慣れない楽器で演奏されるのを目にし、あれが「テナーテューバ」なのだ、といふ印象を与へたことは想像に難くない。

 その当時、不幸にしてそれらの楽器の名称がきちんと説明されることはなかった。I.マルケヴィッチの指揮で、N響が演奏したラヴェル編の「展覧会の絵」では、ビドロのソロを山本訓久氏がテノールホルンで演奏してゐたが、NHK教育放送の「N響アワー」では、氏のソロが始まるや、「ワグナーテューバ」とテロップが挟まれてゐたのは、そのいい例である。

 ユーフォニアムを「吹奏楽の楽器に過ぎない」と批判する者、一方でユーフォニアムの地位の向上と確立を望む者との間に、この「テナーテューバ」は大いに役立つ。

 ユーフォニアムを「吹奏楽の楽器に過ぎない」と批判する者は、「あれはテナーテューバという楽器で、吹奏楽のユーフォニアムとは全然別の楽器だ」と思ひ、吹奏楽に対するオーケストラの優位性を保たうとする。

 ユーフォニアムの地位の向上と確立を望む者は、「テナーチューバはオーケストラの中で発展した楽器だ。オーケストラが盛んなドイツでは、吹奏楽でもこの楽器が使はれてゐる。だからそれはユーフォニアムに該当する」と独自の歴史解釈をやってのけ、ユーフォニアムもオーケストラにおける地位があると主張する。

 ドイツ式のテノールホルンとバリトンとを一律に「テナーチューバ」と頑なに呼びたがるのは、かうした反目しあってゐる両者にとって好都合なのではないか。

 實際のところ、かういふことを書き記すのは勇気がゐる。間違ひなく両者から嫌はれるからである。しかし、面子に関はって歴史からそっぽを向かれるよりは、私にはずっとましなのだ。
 
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2010年10月19日

「意外に知らないチューバの歴史と仲間たち」佐伯茂樹著

 読売日本交響楽団発行の月刊「オーケストラ」10月号(平成22年)を拝讀。特集記事として、佐伯茂樹氏による「意外に知らないチューバの歴史と仲間たち」が掲載されてゐた。

 ドイツで登場した「軍楽隊のバステューバ」と、サクソルンやサクソトロンバなどの同じ円錐比率によるサックスの金管楽器ファミリーに感化を受けたとされるR.ヴァークナーの「オーケストラのテューバ」とが明瞭に分けて記載されてゐる。短い文章ながら、テューバについて、これ程までに明瞭に説明を試みた文章を、私は讀んだことがなかった。

 佐伯氏の解釈は實に明瞭であるが、氏はテューバの複雑な發達過程を明瞭に示したのであって、テューバの複雑な發達過程を簡単に解釈したのではない。そここそが、佐伯氏と他の執筆者との根本的な違ひである。

 これについては、是非佐伯氏の文章を直接ご覧頂きたい。会員向けの冊子だが、ヤマハ銀座店の店頭でなら購入できる。
 
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2010年09月12日

R.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」について

R.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」のTenortuba in Bについて、「テナーチューバ解體新書」に記事を投稿しました。
http://www.tenortuba.com/article/162309242.html

上記記事にも書きましたが、このパートについて興味深いことが記された、R.シュトラウスに宛てられた手紙(もちろんドイツ語)が出版されてゐます。早速昨日ドイツの書店に注文し、目下入荷待ちです。便利な時代になりました。
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2010年08月15日

ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?

 「ユーフォニアムは新しい楽器だから、オーケストラでは使はれない」といふのは、大きな誤解です。しかし、雑誌なんかにもさう書いてあったりしますし、今やYahoo!の知恵袋などでも、当然のやうに回答されてゐます。

例) http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1012930495

 ところが、ユーフォニアム(テノールテューバ)もバステューバもほとんど同じ時期(1830年代)に、軍楽隊用の楽器として発明されてゐるのです。それでは、なぜオーケストラにテューバがあって、ユーフォニアムがないのでせうか。

 オーケストラの編成が巨大になってきたのも丁度その頃でした。当時は、金管の低音楽器として、オフィクレイドといふ楽器(画像参照)が幅を利かせはじめました。これは、ユーフォニアムとほぼ同じ音域で、音色もユーフォニアムに近い楽器です。

 ophiclaide01.jpg
 Guenter Dullat, "Holtzblasinstrumente und Metallblasinstrumente auf Auktionen 1981-2002", P.178, Guenter Dullat, 2003.

 編成が大きくなってきたとは言へ、弦楽器のベース群や、管楽器ではコントラファゴットも既にありましたので、金管の低音楽器には、現代のテューバのやうな、オーケストラの最低音域を響かすやうな役割は、まだ求められてゐなかったのだと考へられます。

 例へば、1830年のベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」の第五楽章には、オフィクレイドのメロディーがありますが、なんと、その一オクターヴ下をファゴットが吹いてゐるのです。今は、オフィクレイドのパートをバステューバで演奏するので、太くて音量の豊かなバステューバが高音を吹き、細くて音の小さいファゴットが低音を吹くといふ、妙なオーケストレーションになってゐます(ですので書き換へて演奏することもあるやうです)。

 それなら、バステューバではなく、むしろユーフォニアムの方がオーケストラに採用されても良ささうなものです。

 しかしこの後、競ふやうに巨大化傾向にあったオーケストラでは、時に大音量でオーケストラを支へるやうな最低音域を、金管低音楽器に求めるやうになっていったのです。結果、オフィクレイドではなく、低音に特化したテューバのパートが設けられるやうになっていくわけです。

 さうなりますと、ユーフォニアム(テノールテューバ)を使ふよりも、低音域に強いバステューバやコントラバステューバなどを使ふ方が、ずっと効果的です。バステューバやコントラバステューバは、次第にオーケストラでの地位を確立していきまして、今では、テューバといふと、誰でもあの大きなテューバのことを想像するやうになったのです。一方ユーフォニアム(テノールテューバ)は、大編成のオーケストラ作品でたまに登場することがある、といふ程度にとどまったのです。

 ですので、ユーフォニアムが新しい楽器だからオーケストラに使はれなかったのではなく、オーケストラにおける金管楽器の役割に適さなかった(居場所がなかった)ので、ほとんど使はれてこなかったのだと言へるでせう。現に、ユーフォニアムとほとんど同じ頃に発明されたバステューバは、オーケストラの編成に採り入れられてゐるのですから。

 そして、今や、オーケストラといふジャンル自体がもてはやされなくなってゐます。これまでの古い作品の興行も覚束ず、かと言って新しい作品が一般に知られることもありませんから、今後ユーフォニアムがオーケストラの編成に組み込まれることが一般的になることは、まづないだらうと想像します。過去に、アメリカのあるオーケストラには、ユーフォニアム奏者の定席があったと聞きます。しかし、それはもはや過去のことです。むしろどうしてユーフォニアムの定席がそのオーケストラから外されたのかを考へるべきだと思ひます。

 私がそんな風に言ふと、まるで私がユーフォニアムを貶めてゐるかのやうに受け止めてしまふ方がゐるかもしれませんが、さうではありません。その穏やかな音色の特性は、硬くクリアな音色の楽器が多くを占める吹奏楽や、円錐形の金管楽器を中心に構成されるブラスバンドでは、重要なポジションにあるのです。これはもう適材適所といふことなのですね。

 オーケストラに定席があるとかないとかが、即ち楽器として優れてゐるとか劣ってゐるといふことではありません。例へばラーメンの具材は食品として劣ってゐて、フランス料理の具材は優れてゐるから、チャーシューは食品として劣ってゐるなどと言ったら、をかしな話です。また、チャーシューをフランス料理に使った例があると言って、チャーシューはフランス料理の具材だとか、いずれフランス料理に欠かせない具材になるとか言ふのも、またをかしな話なのです。

 以上のことは、ユーフォニアムを褒める人も、貶める人も知っておくべき事実かと思ひますが、皆様は如何に考へますか?
 
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2010年07月24日

なんと!

 ちょっと調べ物をしてゐましたら、文献資料の國内最大のデータベース「CiNii」に、パイパーズにおける私のインタヴュー記事が、論文として登録されてゐるのを發見しました!(「岡山栄一」といふのは、まぁちょっとアレですが)

 http://ci.nii.ac.jp/author?q=%E5%B2%A1%E5%B1%B1+%E8%8B%B1%E4%B8%80

 機會を下さった、佐伯茂樹氏に感謝です。

 
タグ:CiNii
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Cerveny の Kaiserbariton と Tenorhorn

 チェコのチェルヴェニー社による、カイゼルバリトンとテノールホルンを入手しました。

  cerveny.jpg

 いづれも、チェルヴェニー獨特の、ロータリーが縦に着いてゐる「Walzenmaschine(ワルツ機構)」によるヴァルヴシステムです。

 カイゼルバリトンはチェルヴェニーの発明品の一つで、ヴァルヴごとにボアサイズの異なるバリトンで、「1<2<3<4」と、段々に太くなって行く仕樣です。ヴァルヴ部分は円錐に出來ないため、ヴァルヴごとにボアサイズを拡大させるといふ、手間のかかる構造にして、円錐に近づけようとしたのではないかと思ひます。

 カイゼルバリトンの特許は、1882年にウィーンで取得されたました。今回入手したものは、ベルのフレアや、ベル部分の支柱からすると、比較的新しい時代のものではないかと思ひます。
 
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2010年06月21日

ホルストの組曲第一番とバリトン

 前の記事のにじる。さんのコメントにお応へする形で…

 ホルストさんの「軍楽隊のための組曲 第一番 op.28a」現在入手できる楽譜は、

・BOOSEY & HAWKES 版
・BOOSEY & HAWKES (マシューズ校訂)版
LUDWIG MASTERS(フェネル校訂)版

それと

楽譜ナウ!版(freehand music)

です。他に、初心者向けに編曲したもの、ブラスバンドや金管アンサンブル、オーケストラに編曲したものがありますが、これはちょっと置いておきます。

 楽譜ナウ!版が、直筆譜+B&H でその後に追加されたパートによる編成のやうな気がします。

 Baritone が1パートちゃんと入ってゐるのは、LUDWIG MASTERS 版と楽譜ナウ!版ですね。

 B&Hのマシューズ校訂版は、Euphonium のパートに、ところどころdiv.で本来の Baritone の動きが入ってゐますが、ユーフォでは響きが重いです。でも、美味しい動きなので、マシューズ版を吹きたがるユーフォ吹きが多いんですよね(苦笑)。

 ホルストの意図としては、二楽章のソロはバリトンを、終盤のなだらかなメロディーはユーフォニアムを想定してゐたといふことになります。双方の音色の特性をよく考へて作曲したと思はれるのです。バリトンを持ってゐるユーフォ吹きも多いのですから、そろそろこの辺をきちんと演奏して行って欲しいと思ふこのごろです。プロの楽団では、近年そのやうな動きが出てゐますね。

 なお、直筆譜には、Baritone のパートは「ad lib」となってゐるはずです。これは、恐らく演奏する場所(室内・屋外など)や天候などに応じて編成を変更する必要のある軍楽隊が、パートを取捨選択出来るやうにしたものだと思ひます。1901年当時のイギリスの軍楽隊編成を辿ってみると、もう少しハッキリしさうに思ひます。このあたりから、恐らく Baritone がイギリスの軍楽隊の編成から外れていく過渡にあったやうに記憶してゐますので。
 
 この辺を、伊藤康秀氏がどのやうに解釈するかも楽しみです。
 
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ホルストの組曲 原典版

 First Suite in E flat for Military Band op.28a のホルスト直筆譜について、作曲家の伊藤康英氏のブログに、素晴らしい情報がありました。

ロンドンの、大英図書館で、ホルストの第1組曲の、ホルスト自身の手書き譜を見てきたのです。この成果は、洗足でも実際に音にして研究発表をしようと思うのですが、バンドジャーナルの付録楽譜としてスコアを出版します。

7月10日発売号に第1楽章、それから隔月で第2楽章、第3楽章。さまざまな版の違いも明らかにし、校訂報告もつけます。


 樂しみですね!

 永久保存版ですね。必ず買はなくては。
 
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2010年03月23日

Flicorno Tenore と Flicorno Basso

  tenore_basso.jpg
  フリコルノ・テノーレ(MARIO CORSO 社製)とフリコルノ・バッソ(RAMPONE & CAZZANI)

 O.レスピーギの交響詩「ローマの松」に登場するバンダ(ブッキーナ)の「Flicorno Tenori」と「Flicorno Bassi」に該當する樂器。Tenori、Bassi は、それぞれ Tenore、Basse の複數形。いずれもピストン式、ロータリー式の兩タイプが製造されてゐる。
 
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