
ユーフォニアム奏者の深石宗太郎氏へご挨拶に伺った日のこと。長年愛用されてゐたサテンシルバーのベッソンを見せていただいた。流石に凹みもなく、ベッソンの美しいフォルムに惚れ惚れとしてゐたのだが、深石氏曰く「吹き始めはいいんですけれどね。數十分すると、音が貧弱になってしまふんですよ。もう樂器がヘタってるんですね。」とのこと。
樂器のヘタリについては、諸説紛々で、私はどうも確信が持てなかったのだが、つい先日、プロ奏者とアマテュア奏者とでは、樂器の扱ひに雲泥の差があるといふことに、今更ながらに氣づかされた。
プロ奏者が樂器を吹いてゐる時間といふのは、一日にどれくらゐなのだらうか。毎日最低3時間吹いたとしても、年に最低でも1,095時間だ。この間、ピストンは常に擦り続けられ、樂器は常に振動させられ、管内は唾液や水蒸気で湿ったままだ。
一方アマテュア(普通に仕事してゐる人)は、週に3時間しか吹けないといふ人も、決して珍しくない。もしこのペースでいったら、アマテュアは年に156.5時間程度しか吹いてゐない。
この數値からしても、プロ奏者の實感する「ヘタリ」と、我々平々凡々なアマテュア奏者が論ふ「ヘタリ」が同じ土俵で論じられるわけがない。一日に1回風呂に入る人と、週に1回しか風呂に入らない人とが、同列に「浴室の耐用年數」を論じられないやうなものだ。
少々飛躍するが、プロ奏者が「道具(Instrument)」として樂器を選ぶのと、アマテュア奏者が「趣味(Hobby)」として樂器を選ぶのとでは、根底的に異なるものなのかも知れない。
タグ:ユーフォニアム