2007年09月23日

G.ホルスト「組曲」の Baritone

 ホルストさんの Suites for Military Band(軍楽隊のための組曲、吹奏楽のための組曲などの和訳あり)といふ名曲があります。B&H から出版された First Suite in E Flat for Military Band(第一組曲)は、私も中学生の頃から慣れ親しんだ版ですが、これはホルストさんの指定した楽器編成を元に、出版社がアメリカ式に大幅に拡大した編成に置換へてから出版したもののやうです。増えたパートがあったのと逆に、消え去ってしまったパートもありました。それが、Baritone です。

 ホルストさんは、Euphonium の他に Baritone のパートを設けてゐて、重要な役割を与へてゐた(F.フェネル「ベーシック・バンド・レパートリー」佼成出版社)やうです。しかし、出版当時のアメリカ吹奏楽界では「Euphonium と Baritone は、同一のパートを演奏するべきだ」とする動き(今度詳しく調べます)があったやうで、結果として Baritone のパートは抹殺され、Euphonium のみが編成に残りました。

 B&H 版の Euphonium のパート譜を見ますと、第2楽章の中盤に「Bar. Solo」といふガイド(通称「豆譜」)があります。これは、普通に読めば「Baritone のソロ」の代奏の意味なのでせうが、出版社が編成から外してしまったのですから、Baritone パートはありません。スコアの方には Alto Clarinet のソロとして書かれてあり、勿論 Alto Clarinet のパート譜にソロが書いてあります。元々ホルストさんは Alto Clarinet を編成に入れてゐなかったものの、出版時にこのパートがアメリカ向けに付け足されたため、無くなった Baritone のソロをそこに移したといふのが事の次第のやうです。

 このやうに辿っていくと、ホルストさんの描いた音楽と、出版された譜面とでは、かなりの隔たりがあるやうに思へてきます。

 後に出版された B&H のC.マシューズ校訂版では、このソロは Euphonium パートに書かれていて、スコアもその通りになってゐます。また、第3楽章の Euphonium ですが、先の版にはなかった div. があり、第一マーチのほぼ全部で Cornet に近い役割を演じます。

 B&H の二つの版は、今も販売されて、演奏にも広く使はれてゐるやうですが、どちらも、Baritone と Euphonium は同一のパートとして扱われてゐます。ところが、最近、さらに新しい版が出まして、新たな局面を迎へることとなりさうなのです。

  10013445.jpg

 Ludwig から出版された、かのF.フェネル氏の校訂版です。 この版では、長い間見捨てられてゐた Baritone のパートが含まれてゐる「らしい」のです。もしさうなら、ソロの部分は勿論、ホルストさんが Baritone と Euphonium をどのやうに使ひ分けたのか、そしてどのやうな音楽をそれぞれの楽器に託したのかを知る、重要な手がかりとなります。

 ちなみに、第二組曲の方には、Baritone のパートはなかったやうです(F.フェネル「ベーシック・バンド・レパートリー」佼成出版社)。また、第二組曲の校訂完成前にフェネル氏が旅立たれたとのことで、こちらの出版に当たっては、氏の草稿を元に構成したとも傳へ聞いてゐます。

 フルスコアを海外に注文する豫定です。共同購入希望の方は、9/25までにメール下さい。1冊50ドル(第一、第二組曲両方なら100ドル)+割勘送料です。
タグ:バリトン
Copyright(C) 2007 岡山(HIDEっち) (PROJECT EUPHONUM http://euphonium.biz/) All rights reserved. 文章・画像の無断転載厳禁 | Posted at Sep.23 00:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | ユーフォニアムの歴史と研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。