ホルストさんは、Euphonium の他に Baritone のパートを設けてゐて、重要な役割を与へてゐた(F.フェネル「ベーシック・バンド・レパートリー」佼成出版社)やうです。しかし、出版当時のアメリカ吹奏楽界では「Euphonium と Baritone は、同一のパートを演奏するべきだ」とする動き(今度詳しく調べます)があったやうで、結果として Baritone のパートは抹殺され、Euphonium のみが編成に残りました。
B&H 版の Euphonium のパート譜を見ますと、第2楽章の中盤に「Bar. Solo」といふガイド(通称「豆譜」)があります。これは、普通に読めば「Baritone のソロ」の代奏の意味なのでせうが、出版社が編成から外してしまったのですから、Baritone パートはありません。スコアの方には Alto Clarinet のソロとして書かれてあり、勿論 Alto Clarinet のパート譜にソロが書いてあります。元々ホルストさんは Alto Clarinet を編成に入れてゐなかったものの、出版時にこのパートがアメリカ向けに付け足されたため、無くなった Baritone のソロをそこに移したといふのが事の次第のやうです。
このやうに辿っていくと、ホルストさんの描いた音楽と、出版された譜面とでは、かなりの隔たりがあるやうに思へてきます。
後に出版された B&H のC.マシューズ校訂版では、このソロは Euphonium パートに書かれていて、スコアもその通りになってゐます。また、第3楽章の Euphonium ですが、先の版にはなかった div. があり、第一マーチのほぼ全部で Cornet に近い役割を演じます。
B&H の二つの版は、今も販売されて、演奏にも広く使はれてゐるやうですが、どちらも、Baritone と Euphonium は同一のパートとして扱われてゐます。ところが、最近、さらに新しい版が出まして、新たな局面を迎へることとなりさうなのです。

Ludwig から出版された、かのF.フェネル氏の校訂版です。 この版では、長い間見捨てられてゐた Baritone のパートが含まれてゐる「らしい」のです。もしさうなら、ソロの部分は勿論、ホルストさんが Baritone と Euphonium をどのやうに使ひ分けたのか、そしてどのやうな音楽をそれぞれの楽器に託したのかを知る、重要な手がかりとなります。
ちなみに、第二組曲の方には、Baritone のパートはなかったやうです(F.フェネル「ベーシック・バンド・レパートリー」佼成出版社)。また、第二組曲の校訂完成前にフェネル氏が旅立たれたとのことで、こちらの出版に当たっては、氏の草稿を元に構成したとも傳へ聞いてゐます。
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