2011年10月19日

使へる樂器と使へない樂器

 樂器のオークションを始めて、かれこれもう10年近くになるかと思ひます。オークションはまさに玉石混淆。賣りも買ひも色々やってきましたが、今になって思ふことが幾つかでてきました。その一つが「使へる樂器と使へない樂器」です。

 これは、「その樂器の特性がちゃんと出てゐる樂器」が「使へる樂器」だといふことです。たとへ古くても、その樂器の特性がちゃんと出るのであれば、いつの時代のものでも、どこで作ったものでも「使へる樂器」と言って良いと思ふのです。

 しかし、その樂器の特性が出てゐなければ、ただの筒です。修理しても、いくら手を入れても、その樂器の特性は出てこないのが現實です。では、オークションでは、どんな樂器に手を出してはいけないかを、經驗に基づきながら、少しだけ書いておきます。

○ 中国製の樂器

 反發する方もいらっしゃるかもしれませんが、オークションに出てゐるもののほとんどはまともに作られてゐませんし、そもそも形だけで、その樂器の特性を出さうと思って作られてゐるものなど、ほとんどないからです。先日上海で見たような樂器は、まだオークションにはほとんど出てゐません。

 もちろん私は、「その樂器の特性を引き出したい」といふ奏者を前提に言ってゐます。初心者さんですとか、予算の限られた學校さんですとか、また普段は他の樂器をやってゐてちょっと遊んでみたいといふ方は、また別です。

 「その樂器の特性を引き出したい」といふ奏者を前提に言ふなら、ユーフォニアム関連で行くと、オークションに出てゐる中国製の90%以上は、使ひものにならない、といふ印象です。特にコンペの場合、どうしても前の記事に書いたことが氣になります。これは後で手を入れてもどうにもならない部分だと思はれます。

 例へば倒産した喜望峰さんは、中国で製造されたものに、後から色々手を入れたりしてゐましたが、コンペの樂器としては、響きが全く駄目でした。あくまで「値段の割には」といふところで、妥協が出來るのです。

 前のレポートの通り、中国製の中にもなかなかいい線行ってゐるものも出てきており、用途によっては、私からお勧めできるものがあるのですが、それらはオークションを見ても、まだ出てゐません。販賣する方のほとんどは、ユーフォニアムに其處まで入れ込んではゐません(どれが良くてどれが良くないんだか、正直言ってわからないといふ販賣者も實際多い)から、今後も期待はできません。

 ところで、某社が作らせてゐるコンペの樂器は、なかなかのものと聞いています。おそらく、他の中国製の樂器から比べれば、かなりいい線なのではないかと思ひます。しかし、その元になってゐる樂器(これが作れるところは限られてゐますので、すぐわかります)を吹いた限りでは、この樂器の持つ根本の問題をクリアできるとは思へません。コンペのやうな繊細な樂器は、ともすれば抵抗ばかりで響きが曇ってしまふ厄介な構造を解決させるべく、全部の設計を一からやるのでなければ、本來の響きの特性が發揮されないのかもしれません。

 さういへば、某社の樂器について掲示板などに意見を書くと、「吹いたこともないくせに」と、すぐ感情的に猛反發する方がをられました(リサーチのために關係者が掲示板などに質問を入れてゐるやうに感じられたことすらありました。最近はさういふことはありませんが)。そんなに自信がおありでしたら、是非とも當方にお持ち下さればなぁと思ひました。謹んで(もちろん大眞面目に)試奏させて頂きますし、その感想を正直に掲載させて頂きます。ご希望であれば、中国製の他のメーカーとの順位をつけることも出來ます。

 さて少し話がそれましたが、それではドイツ系の卵形の樂器はどうかといふと、殘念ながら、これはほぼ100%駄目です。賣ってる業者も、何が良くて何が良くないのかが、全くわかってゐません。上海でもこれまでに何本も試奏しましたが、この樂器の特性の一つである音の伸びが、全然お話にならないレヴェルです。本場の樂器が上等な鹿のルイベだとすれば、中国製の樂器はとけた得體の知れない肉といふくらゐに違ひます。

 これで、その樂器本來の特性を感じようとしても、無茶な話です。このやうな樂器で得られるものは、まがい物の體驗と知識になってしまひます。しかも、それしか經驗がなければ、それがその樂器の特性だと勘違ひしてしまふやうになります。

 普段知らない特性を持つ樂器程、本物に觸れることが大事です。豫算に限りがあるなら、きちんとしたメーカーの状態の良い中古を購入すべきです。

○ 極端に古い樂器

 金管樂器の多くは金属で、そのヴァルヴ部分は金属です。ここが摩耗しますと、音色が大きく變ってしまひます。特性が變化すると言ってよいでせう。では、ユーフォニアムやバリトンなどがどれだけ保つかといふと、これは樣々な意見があるかと思ひます。管の厚みや、材料の特性にもよるでせう。

 私の経験で行きますと、大體40年を超えた樂器は、骨董品の部類に入り、アマテュアでも實戰には向かないと思ひます。もうその樂器の特性が出にくくなってをり、他の經年劣化の部分が目立つやうに感じます。

 ベッソンならニュースタンダードが限界、ニュースタンダードクラスAは状態によってギリギリですが大半はもう無理、B&Hなら地球儀のImperialが限界です。プロユースであれば、これらも厳しいでせう。
 
 これ以前のものは、骨董品として、やや枯れた趣のある音を樂しむにとどまります。たとへ有名なメーカーのものでも、手を入れたところで、失はれた艶は戻るものではないやうです。私は大體「にほひ」で使へるか、使へないかがわかります。

 コレクションとして樂しんだり、研究用にするのであれば別ですが、これらの樂器で、その樂器の特性を知らうといふのは、無茶です。

○ 最後に

 その樂器の特性を知って、それを道具として使ひたいのであれば、使へない樂器を何本持ってゐても無駄で、むしろ余計な知識と思ひ込みが培はれるばかりです。それなら、たとへ中古でも、状態の良い本物を一本持っておく。あとは氣持ちさへあれば、奥深い發見が得られるのです。是非さうあられることを願ひます。
 
Copyright(C) 2011 岡山(HIDEっち) (PROJECT EUPHONUM http://euphonium.biz/) All rights reserved. 文章・画像の無断転載厳禁 | Posted at Oct.19 00:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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