2010年08月15日

ユーフォニアムがオーケストラにないのはなぜか?

 「ユーフォニアムは新しい楽器だから、オーケストラでは使はれない」といふのは、大きな誤解です。しかし、雑誌なんかにもさう書いてあったりしますし、今やYahoo!の知恵袋などでも、当然のやうに回答されてゐます。

例) http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1012930495

 ところが、ユーフォニアム(テノールテューバ)もバステューバもほとんど同じ時期(1830年代)に、軍楽隊用の楽器として発明されてゐるのです。それでは、なぜオーケストラにテューバがあって、ユーフォニアムがないのでせうか。

 オーケストラの編成が巨大になってきたのも丁度その頃でした。当時は、金管の低音楽器として、オフィクレイドといふ楽器(画像参照)が幅を利かせはじめました。これは、ユーフォニアムとほぼ同じ音域で、音色もユーフォニアムに近い楽器です。

 ophiclaide01.jpg
 Guenter Dullat, "Holtzblasinstrumente und Metallblasinstrumente auf Auktionen 1981-2002", P.178, Guenter Dullat, 2003.

 編成が大きくなってきたとは言へ、弦楽器のベース群や、管楽器ではコントラファゴットも既にありましたので、金管の低音楽器には、現代のテューバのやうな、オーケストラの最低音域を響かすやうな役割は、まだ求められてゐなかったのだと考へられます。

 例へば、1830年のベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」の第五楽章には、オフィクレイドのメロディーがありますが、なんと、その一オクターヴ下をファゴットが吹いてゐるのです。今は、オフィクレイドのパートをバステューバで演奏するので、太くて音量の豊かなバステューバが高音を吹き、細くて音の小さいファゴットが低音を吹くといふ、妙なオーケストレーションになってゐます(ですので書き換へて演奏することもあるやうです)。

 それなら、バステューバではなく、むしろユーフォニアムの方がオーケストラに採用されても良ささうなものです。

 しかしこの後、競ふやうに巨大化傾向にあったオーケストラでは、時に大音量でオーケストラを支へるやうな最低音域を、金管低音楽器に求めるやうになっていったのです。結果、オフィクレイドではなく、低音に特化したテューバのパートが設けられるやうになっていくわけです。

 さうなりますと、ユーフォニアム(テノールテューバ)を使ふよりも、低音域に強いバステューバやコントラバステューバなどを使ふ方が、ずっと効果的です。バステューバやコントラバステューバは、次第にオーケストラでの地位を確立していきまして、今では、テューバといふと、誰でもあの大きなテューバのことを想像するやうになったのです。一方ユーフォニアム(テノールテューバ)は、大編成のオーケストラ作品でたまに登場することがある、といふ程度にとどまったのです。

 ですので、ユーフォニアムが新しい楽器だからオーケストラに使はれなかったのではなく、オーケストラにおける金管楽器の役割に適さなかった(居場所がなかった)ので、ほとんど使はれてこなかったのだと言へるでせう。現に、ユーフォニアムとほとんど同じ頃に発明されたバステューバは、オーケストラの編成に採り入れられてゐるのですから。

 そして、今や、オーケストラといふジャンル自体がもてはやされなくなってゐます。これまでの古い作品の興行も覚束ず、かと言って新しい作品が一般に知られることもありませんから、今後ユーフォニアムがオーケストラの編成に組み込まれることが一般的になることは、まづないだらうと想像します。過去に、アメリカのあるオーケストラには、ユーフォニアム奏者の定席があったと聞きます。しかし、それはもはや過去のことです。むしろどうしてユーフォニアムの定席がそのオーケストラから外されたのかを考へるべきだと思ひます。

 私がそんな風に言ふと、まるで私がユーフォニアムを貶めてゐるかのやうに受け止めてしまふ方がゐるかもしれませんが、さうではありません。その穏やかな音色の特性は、硬くクリアな音色の楽器が多くを占める吹奏楽や、円錐形の金管楽器を中心に構成されるブラスバンドでは、重要なポジションにあるのです。これはもう適材適所といふことなのですね。

 オーケストラに定席があるとかないとかが、即ち楽器として優れてゐるとか劣ってゐるといふことではありません。例へばラーメンの具材は食品として劣ってゐて、フランス料理の具材は優れてゐるから、チャーシューは食品として劣ってゐるなどと言ったら、をかしな話です。また、チャーシューをフランス料理に使った例があると言って、チャーシューはフランス料理の具材だとか、いずれフランス料理に欠かせない具材になるとか言ふのも、またをかしな話なのです。

 以上のことは、ユーフォニアムを褒める人も、貶める人も知っておくべき事実かと思ひますが、皆様は如何に考へますか?
 
Copyright(C) 2010 岡山(HIDEっち) (PROJECT EUPHONUM http://euphonium.biz/) All rights reserved. 文章・画像の無断転載厳禁 | Posted at Aug.15 18:48 | Comment(1) | TrackBack(0) | ユーフォニアムの歴史と研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
改めて博識に感心いたします。 ユーフォニオンが19世紀ウイーン(かオーストリア)の発明というのは、音楽史の研究家でもある先生からきいたことがあります。意味はいい音ーということです。 

ベルが曲がっているバリトン(?)のソロはマーラー7番のが凄いですが、あちらにいた時R・シュトラウス・英雄の生涯、メンデルスゾーン・真夏の夜の夢(だとおもいますが)ウイーン・フィル定期でききました。 ドイツのバス・チューバとイギリス式のユーフォニウムでした。

ユーフォニウムは割と簡単に音が出るので、そおっと吹いていることが多いそうです。 もっとブレス!で吹くと繊細さに加えて凄みもでて溶けやすくなるのかもしれません。  
Posted by タロッペいたばし at 2010年08月20日 10:00
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